どのお客様が当社にとって重要な顧客かを判断するとき、売上高の大きさで判断してしまいがちです。
重要かそうでないかは、数字だけでは表せない部分もありますが、定量的に判断するには売上の大きさだけではなく投資効率で判断することが必要です。
たとえば
A社とB社という2つの会社があります。
A社は、毎月100万円の売上を上げ年間売上1,200万円です。
B社も、毎月100万円の売上を上げ年間売上1,200万円です。
どちらが儲かっていますか?
1.同じ
2.わからない
答えは2ですね
売上はお客様への販売価格であり、その原価がわからなければいくら稼いだかはわかりません。
では、
A社の利益率は10%
B社の利益率も10%
の場合はどちらが儲かっていますか?
1.同じ
2.わからない
大抵は、この利益率で判断してしまいがちです。
どちらも年間120万円の利益をあげますので年間の利益は同じです。
(1,200万円×10%=120万円)
どちらが儲かっているかという質問に対しては、どちらも120万円利益をあげているので同じという答えもできます。
どちらが効果的に儲けを出していますか?
効果的にというところまで考えると答えを出すには情報が足りません。
商売では、いくら投資をしていくら儲けたかということを考える必要があり、年間120万円の儲け額は同じでも、それぞれいくら投資したかを考える必要があります。
資金を余るほど持っていて、使い道に困っているといううらやましい会社であれば効率なんて考えずに、利益の額だけみて原価よりも売上が大きければどんどん投資すればよいと思います。
しかし、だいたいの会社は使える資金に限りがありますので、資金の効果的な使い方を考えることが重要です。
売上を上げたとき売掛金という債権が立ちます。
売掛金はお客様へ支払いを待ってあげる ”つけ” ですね。
高校生のころ、部活が終わると帰り道で学校の近くのパン屋さんに寄っていつもただでパンを食べていました。
ただでというのは、後でまとめて支払いをするので ”おばちゃんつけといて”なんていう感じでお腹がすいたときはいつも食べ放題です。
少し脱線しましたが、お客様へ支払いを待ってあげることを条件に各会社は取引をします(これを与信と呼びます)。
この”つけ”をいつまで待ってあげるかが商売における投資効率を考える意味において重要となります。
”つけ”をお客様への投資と考えて、つけである売掛金残高の金額に対してどれくらい利益を上げられるかを考えるのが「商売における投資効率」となります。
販売における投資効率とは
では、先の例のA社とB社にもう一度出てもらいましょう。
A社は毎月100万円を売上げ、利益率は10%です。
そして、売掛金の回収は3カ月で回収しています。
B社は毎月100万円を売上げ、利益率は10%です。
そして、売掛金の回収は6カ月で回収しています。
この場合
A社の年間投資効率は10%×4回転=40%と算出します。
B社の年間投資効率は10%×2回転=20%と算出します。
A社の方は300万円使って、120万円の利益をあげています。
B社の方は600万円使って120万円の利益をあげています。
よって、A社の方が投資効率はよく、B社とくらべて使う投資額が300万円も少ないのですから、その金額を他の投資へ使えばさらに利益はあがられることになります。
上の計算の4回転(A社)と2回転(B社)の意味を少し説明しておきます。
A社は、売掛金を3カ月で回収するので常に3か月分の売掛金残高を保有しています。
よって、売掛金(投資)が発生し回収をして、またそれを投資して回収して、またそれを投資して回収して・・というように年間4回繰り返します。
(12か月÷3カ月=4回転)
B社は、売掛金を6カ月で回収するので常に6カ月分の売掛金残高を保有しています。
よって、売掛金(投資)が発生し回収して、またそれを投資して回収します。
B社の場合はこれで1年が過ぎてしまい2回転(12か月÷6カ月=2回転)しかしません。
もうひとつ例をあげてみます
C社の売上が毎月100万円で利益率が10%とします。
売掛金回収期間は1か月とします。
D社の売上は毎月100万円で利益率が30%とします。
売掛金の回収期間は4カ月とします。
C社
年間売上高 1,200万円
年間利益 120万円
利益率 10%
売掛金回収 1か月(=年間12回転)
常時売掛金残高 100万円
投資効率 120%
D社
年間売上高 1,200万円
年間利益 360万円
利益率 30%
売掛金回収 4カ月(=年間3回転)
常時売掛金残高 400万円
投資効率 90%
D社の方がC社よりも利益率は高いですが、投資効率ではC社の方が高いです。
この投資効率は次のように計算します。
投資効率=利益率×売掛金回転数
C社投資効率=10%×12回転=120%
D社投資効率=30%×3回転= 90%
C社は100万円を使って年間120万円を稼いでいる
D社は400万円を使って年間360万円を稼いでいる
利益額だけで見れば、D社の方が多く稼いでいます。
しかし、C社はD社と比較して300万円投資額が少ないので、それをD社の投資効率90%を上回る他の投資に回せるのであれば、トータルでC社の方が利益額は多くなります。
利益額を重要点として、投資効率は悪くても利益をなるべく多くとりにいくか、投資効率を重要点として、少ない投資資金で利益を最大化することを考えるかは会社の経営判断になります。
しかし、どちらの戦略にしても使える資金でできるだけ多くの利益を取りに行くことは共通ですので、商売においても投資効率を考えることは重要です。
重要なお客様の判断基準としては、売上高の大きさのみで考えるのではなく
利益率、債権回転期間も含めた投資効率で見ることも必要です。
実際に負担する資金を投資額と考える
ここで感のよい方は疑問に思ったかと思います。
債務の期間はどう考えたらよいのか?と。。
これまで投資効率を説明するにあたり、わかりやすいように債権回転期間のみで説明しました。債権回転期間というのは販売してから回収までの期間をいいます。
しかし、実際に投資効率を判断するのは債権回転期間から債務回転期間を引いた期間で計算する必要があります。
なぜなら、その期間が実際に資金を負担していることになるからです。
この資金負担額を投資額とみなして計算します。
計算式は次のようになります。
投資効率=利益率× ( 12カ月 /(債権回転期間−債務回転期間))
たとえば、利益率30%の商品を仕入れて販売するとします。
販売から回収まで4カ月かかり、支払は仕入から1カ月後とした場合、債権回転期間は4カ月、債務回転期間は1カ月となります。
実際に資金を負担するのは3カ月ですので投資効率は次のようになります。
投資効率=30%× ( 12カ月 / 3カ月 )= 120%
もしも、債務回転期間が債権回転期間よりも長い場合には、たとえ利益率が小さくても投資する価値はあります。
資金負担がなく利益があげられるのですから。。