借入金総額は多いのか?妥当なのか検証する

会社は事業を運営するうえで資金が必要であり、銀行などから資金調達をします。

銀行は、その会社の信用度により貸し付ける資金の総額を決めます。
財務の担当者としては、銀行から見てどれくらいが貸付ける金額として妥当なのかを知りたいところです。

一番のポイントはなんといっても事業の評価であることは間違いありません。
現在赤字で大きな借金があったとしても、今後莫大な利益が見込まれるのであればいくらでも資金調達することは可能です。(その将来性を評価してもらえるのであればですが)

ここではそのような収益性を除き、バランスシートにおいて借入金の限度はどれくらいなのかを判断してみます。

銀行より短期と長期を合わせて43億円を借り入れています。
この額は大きすぎるのか、妥当なのか?

次のバランスシートにより検証してみます。

                              単位:千円

運転資本
運転資本からみた借入金総額の妥当性検証

事業を運営するために、いくらの資金が必要なのかを考えます。
事業運営をするために必要な資金は運転資金として算出します。

運転資金は通常、売上債権、棚卸資産、買掛債務により求めますが、手元資金がゼロでは事業運営ができませんので、現金および預金も事業運営に必要な資金として含めて計算します。

上記のバランスシートにより運転資金は、4,451,900千円となります。
現預金(C3)+売掛債権(C4)+棚卸資産(C5)-買掛債務(F3)
=4,451,900千円

よって、事業を運営するにあたり44億円が必要であり、その分の借入金が必要となります。

運転資金の各項目と借入金の関係は次の通りです。

現預金
事業を運営するにあたり現金および預金は必要であり、その分借入が必要となる。

売掛債権
販売をしたけどまだ現金を回収していないため、資金が不足する状態であり、その分借入が必要となる。

棚卸資産
購入したがまだ売上になっていないものであり、購入した分資金が不足している状態であり、借入が必要となる。

買掛債務
仕入をしたけど支払いを待ってもらっているため、資金に余裕がある状態であり、その分借入は必要ない。

一方、当社の借入金は次の通り4,308,700千円となります。
短期借入金(F4)+長期借入金(F9)=4,308,700千円

短期借入金とは、銀行などにより借り入れた金額のうち、返済期限が1年以内のものをいい、長期借入金とは返済期限が1年以上のものをいいます。

運転資本と借入金の関係

 

結論
借入金総額は運転資金以内に収まっているので妥当と判断

借入金(43億円)は、運転資金(44億円)以内ですので、事業運営において必要な資金のみ借入調達していると判断できます。

もしも借入金の額が運転資金の額を超える場合には、その超える分他の資産(たとえば固定資産)のために資金を調達していることになります。

調達した資金が運転資金で消えてしまうことは、借り入れる側としてよいことではありません。
同じ借入総額であれば、売掛金を早く回収して、在庫の回転率を上げて在庫を減らし、なるべく運転資金を少なくすればその浮いた分を投資や固定資産の購入などに充てることができます。

逆に銀行から見た場合、貸した資金(貸付金)が運転資金のみに使用され他の固定資産の購入などに使われていないとすれば、安心の面はあります。

仮に今会社が倒産し、貸付金がどれくらい回収できるかを考えてみた場合、運転資金のみに貸付金が使われているのであれば、売掛債権を回収して、在庫を売り切り、買掛債務を返済した後の資金で貸付金の回収が可能となります。

貸付金が固定資産の購入に使われている場合には、その固定資産を売却した資金で貸付金を回収しなければならないため、貸す側としてはその固定資産がはたして売却できるのか、または売却してお金になるのか不安なところです。

よって、貸す側(銀行)としては、貸した資金が運転資金のみに使用されているのであれば安全とみなします。

もちろん、運転資本を構成する売掛金、在庫などに不良が混ざっていないことが前提です。

さらに
流動資産>流動負債+固定負債 となっていたら安全です。
会社を清算するとしても、流動資産(1年以内で資産化できるもの)のみで負債の総額を返済できてしまうのですから。

バランスシートから計算してみると次のようになります。

① 流動資産=6,891,700千円(C2)
② 負債合計=7,154,000千円(F2+F8 )
①-②=▲262,300千円

2.6億円ほど不足していますが、ほぼ流動資産のみで負債総額を返済できるのでバランスシートは健全であり、「借入金総額43億円は妥当な大きさである」と評価することができるのではないでしょうか。

運用利回りと収益率の違い

当社では、企業型確定拠出年金を行っており、社員が自分で退職金を運用しています。

毎月会社から拠出金が個人の口座(DC口座)へ振り込まれ、60歳まで自分で運用します。

運用状況はWebで確認できますが、運用率について見る箇所を間違えている者がいるため、記述しておきます。

 

予定利率を超えているかチェック

当社の予定利率(期待運用収益率)は3%です。

当社は、確定給付年金から確定拠出年金へ移行しました。
予定利率とは、60歳で旧制度の退職金(確定給付年金)と同額の退職金をもらうためには、何%で運用すればよいのかという利率を意味します。

運用は良いときも、悪いときもありますが、平均3%以上で運用できたら旧制度での退職金よりも多くもらうことができます。

この3%を意識して運用商品のバランスを考えながら、会社が用意した投資信託商品を売買していくのですが、

webの資産状況を見ると、利率が2つありどちらを見たらよいのかわからないという意見がありました。

社員Aの資産状況

ズバリ、予定利率3%と比較して見る箇所は「運用利回り」です。

損益率は資産残高と拠出金累計の差額を率で示したものです。
154,060÷3,000,000=5.1%

運用利回りは毎月の掛金をこれまで2%で運用してきたことを示しています。

 

積立額計算

毎年50万円を運用利率2%で運用した場合、次のようになります。

 

これは、毎年50万円づつ拠出金が支払われ、2%で運用した場合の各年度の運用累計額を表しています。

一番下段が、損益率ですが6年目を見ると5.1%となっています。

従って、入社6年目の社員Aの運用利回りは2%、損益率は5.1%ということになります。

*本来は毎月拠出金がありますが、年1回、期末に拠出するものとして計算しています。

毎年50万円づつ拠出金があり、運用利回り2%で10年間運用したらいくらになるかは、エクセル関数を利用すれば一発で出ます。

= FV  ( 0.02 , 10, -500000 , 0 , 0)
=5,474,860

それぞれの意味は次の通りです。
=FV(利率, 期間, 定期支払額, 現在価値, 支払期日)

参考
FV関数を使って積立てによる将来の貯蓄額を計算する

 

また、高校生の頃数学の授業でやった(はず?)等比数列を使うと次のようになります。

資産累計額  =初項 ×(公比 ^ 項数 -1 ) /  (公比-1)

初項:500,000円
公比:(1+2%)
項数:10年

資産累計額 =500,000 ×((1+2%)^10 -1 ) /  2%
= 5,474,860

 

運用知識を正しく身に付けて、老後の生活原資である退職金を増やしていきましょう。

 

運転資本と借入金の関係

会社は銀行から資金を調達して事業運営を行います。
銀行が企業へ資金を貸し出す量の目安として、月商の3倍を基準にしているとよく言われます。

もちろん評価基準はそれだけではなく、業績推移や業界動向、投資効率など他の面も加味して評価されるのですが、そのうちのひとつとして「運転資本はどれくらいか」という基準があります。

運転資本とは

運転資本とは、会社が日々事業を営んでいくために必要な資金を言います。

日常の営業取引を3点に絞ってそれぞれの取引条件を見ることにより、必要な資金量を求めることができます。

運転資本は企業の支払能力を示すものであり、銀行が企業に貸し出す資金量の目安としています。

その3点とは,次のものをいいます。

① 売上債権:商品やサービスを掛取引で販売したが、まだ受け取っていない代金で、売掛金や受取手形などをいいます。

②棚卸資産:在庫であり、商品、製品だけでなく、原材料や仕掛品なども含みます。

③仕入債務:商品やサービスを掛取引で購入したが、まだ支払っていない代金で、買掛金や支払手形などをいいます。

この3点を使い運転資本を計算すると次のようになります。

運転資本=①売上債権+②棚卸資産-③仕入債務

もしも、企業の資産が売上債権(2,000万円)と棚卸資産(1,000万円)しかなく、負債が仕入債務(1,500万円)しかないとした場合のバランスシート(貸借対照表)は次のようになります。

バランスシートの見方として
会社が事業活動をする上でどのように資金を調達しているかを見るのは貸方側(右側)を見ればよく、その調達した資金をどのように運用しているかは借方側(左側)を見れば分かります。

この例では、仕入債務と運転資本で資金を調達し、その資金が売上債権、棚卸資産として運用されているということが説明できます。

仕入債務は支払いを待ってもらっているので、資金調達とも言えます。
そして調達した資金は、売上債権と棚卸資産という資産に”ばけている”ということになります。

運転資本という科目はないのですが、大きく分けて
短期借入金、長期借入金、自己資本になるかと思います。

要するに、事業活動を営むにあたり調達不足額(運転資本)を短期で借入て調達するか、長期で借入れて調達するか、または自己資金で担うかということです。

この運転資本をいかに小さくするかが、資金繰りを楽にするポイントとなります。

理想は「回収は早く」、「支払いは遅く」、「在庫は少なく」ですね。

しかし、相手があることですので、こちら側の「回収は早く」は、相手側にとっては「支払いは早く」になりますので、難しいところです。

営業担当者はなるべく円滑に取引を進めたいので、回収条件として相手側に合わせて回収は遅くなりがちです。また在庫も多めに取りがちになります。

そうすると、売上債権と棚卸資産が増加し、運転資本が大きくなります。
そのため、借入金で調達することになり借入利息の負担も大きくなっていきます。

キャッシュコンバージョンサイクルとは

運転資本は、日商(年間売上高÷365日)の何日分が必要かという見方もあります。

運転資本の計算式は
運転資本=売上債権+棚卸資産-仕入債務
と、それぞれの項目の残高で計算されました。

「運転資本は日商の何日分か」を計算するには、それぞれの項目を回転日数に直してあげれば求めることができ、
これを「キャッシュ・コンバージョンサイクル」と呼び次の式で算出されます。

キャッシュ・コンバージョンサイクル(日商の〇日分)=
売上債権回転日数(日商の〇日分)+棚卸資産回転日数(日商の〇日分)-仕入債務回転日数(日商の〇日分)

たとえば、
売上債権回転日数:102日  売上債権 /  (年間売上高÷365)
(売上をする日から回収する日まで何日あるか)

棚卸資産回転日数:20日  棚卸資産 / ( 年間売上高÷365)
(在庫をする日から売上げをする日まで何日あるか)

仕入債務回転日数:91日   仕入債務 / (年間売上高÷365)
(仕入をする日から支払いをする日まで何日あるか)

とした場合、
キャッシュコンバージョンサイクル=102日+20日-91日=31日
となり、日商(1日の平均売上高)の31日分の借入が必要ということになります。

※棚卸資産回転日数・仕入債務回転日数の計算は、分母に「売上高」ではなく「売上原価」を用いる場合もあります。
ここでは、「運転資本は日商の何日分か」を知りたいので分母は売上高としています。

1回だけの取引を図で示すと次のようになります。

4/1に商品を買掛金で購入し、そのまま在庫する。
在庫は20日過ぎた後、4/20に売掛金で販売をする。
その後6/30に現金支払いを行う。
7/31に現金を回収する。

よって、6/30の支払いから7/31の回収まで31日分の運転資本が必要であり、この間の資金を補うため借入を行う必要があるということになります。

 

運転資本がマイナスの会社も当然あります。
支払いよりも回収が先行しており、資金繰りは非常に楽になります。

掛けで商品を購入して、その商品を販売し即現金をもらう。
その現金を掛けの支払いに充てる。

これであれば手元に現金がなくても商売ができてしまい、無からお金を生み出すことになりますね。

 

将来価値と現在価値(パワーポイントアニメーション)

会社経営において、現在価値と将来価値の考え方は頻繁に出てきますのでマスターしましょう。

たとえば、いくつか投資案件があった場合、それぞれの将来のキャッシュフロー予測を現在価値に直して投資の意思決定をします。

また、企業が他社を買収するときなど企業価値を評価しますが、その際将来のキャッシュフロー予測を現在価値に直して企業価値を評価します。

「将来価値と現在価値」について、パワーポイントでアニメーション教材を作成してみました。

( ナレーション・BGMはありません)

 

値引き交渉で考えるべきこと

販売計画において「利益率の高い商品」を「多く販売する」ことが重要となります。

しかし、通常この2つのニーズは相反するものであり、「値段を安くする」代わりに「数量を多く買ってもらう」という交渉になるかと思います。

それには、お客様から値引きを交渉された場合、カウンターとしてどのくらいの数量増をお願いすればよいか把握しておく必要があります。

利益率が10%の商品Aにつき、お客様から次のような提案を受けたとします。

「商品Aを購入したいのだが、3%ほど値引きしてくれたら、いつもより多めに引き取らせてもらってもいいのだが」

あなたなら、数量何%アップを要求しますでしょうか?

算出式は次のようになります。

数量増要求率 = 対象商品の利益率  /  (対象商品の利益率 - 値引率 )

よって、0.1 / (0.1-0.03) = 1.428 となり
42.8%アップの数量増を約束してもらえないと、利益は減少してしまいます。

もし、商品の利益率が20%だとしたら、同じ3%の値引率でも

0.2  /  ( 0.1 - 0.03 ) =1.176  となり
17.6%アップの数量増要求で利益減少を免れることができます。

当然のことですが、商品の利益率がどれくらいあるかで応じることができる値引率も決まってきます。

値段交渉、数量交渉には、相手との力関係がありますので、単純に算式だけで交渉することはできません。

しかし、「いくらまでなら許容できるのか」を都度正確に把握できる力は必要です。

EVAとFCFの違いを理解しよう

将来の EVA (Economic Value Added:経済的付加価値) をそれぞれpresent value (現在価値) に割引いて合計したものをMVA (Market Value Added:市場付加価値) といいます。

MVAの説明はこちら → EVA(経済的付加価値)とMVA(市場付加価値)の関係

 

MVAの計算では各期のEVAを現在価値に割引きして合計しますが、

NPV(Net Present Value:正味現在価値)の計算では各期の FCF (Free Cash Flow)を現在価値に割引きして合計し、投資額を控除して計算します。

MVAとNPVの値は同額となりますが、各期のEVAとFCFは同額とはなりません。

例を示します。

100,000千円の資金を調達して事業に投資をし、将来の営業利益を次のように予測したとします。

1年目 5,000千円
2年目     6,000千円
3年目 6,500千円
4年目 7,000千円
5年目 8,000千円

MVAとNPVにつき次のように計算すると5,909千円で同額となります(赤枠)が、
EVAとFCFは各期においてそれぞれ異なる値となります。(青枠)

 

 

各期のEVA(青色)とFCF(橙色)の比較

 

EVAによる投資評価は、減価償却費は期間費用として認識しますが、FCFでは足し戻して費用として認識しません。

また、FCFでは初期投資額 が0年目のキャシュアウトとして記録され、投資のコストを投資時に一括で認識し、

それ以後の各期においては初期投資額が利益に反映されていません。
そのため、初期投資額に関係なくCFが発生しているように見えます。

それに対し、EVAでは初期投資額は減価償却費と資本コストとして各期に配分して認識されます。

各期においてどれだけの価値創造が行われているかの状況が把握できるのはEVAの方かと思いますので、業績評価指標としてはEVA の方が適しているように思います。

 

EVA(経済的付加価値)とMVA(市場付加価値)の関係

企業は事業に投資するために銀行や株主から資金を調達します。

その資金を資産に変え、その資産を利用して事業を運営していきます。

投資者から調達するコストを費用と認識し、
事業により得た利益から控除して、

企業が真に生み出した価値を評価する方法をEVA(Economic Value Added : 経済的付加価値)といいます。

このEVAは各事業年度において算出される価値であり、事業年度単位でしか評価できません。

M&Aにおいて企業価値を算定するには、将来のEVAを合算した金額を算定する必要があります。

このEVAの合算した金額のことをMVA (Market Value Added : 市場付加価値)と呼びます。

MVAの定義
「企業が将来生み出すであろうと投資家が期待するEVAの現在価値の合計」

つまり、将来の予測のキャシュフローにより算出したEVAをそれぞれ現在価値に直して合計したものがMVAです。

図で示すと次のようになります。

 

事業へ投下した資本にMVAを加算した額が企業価値となります。

 

MVAはマイナスになることもあります。
この場合は投下資本を回収できないことを意味し企業価値は棄損することになります。

 

MVAにつき説明しましたが、NPVの方が一般的に知られているかもしれません。NPVとMVAは 同額となります。

各期のCF(cash flow)の 現在価値を合計して、そこから 初期投資額を控除した額がNPVです。

NPVの説明はこちら → IRRとNPVで投資価値を評価する

 

EVAで企業の本当の価値を評価する

M&Aをしたいのだが、対象 の企業はどれくらいの 価値を生み出しているのだろうか?

いくつかある投資案件のうち、どの事業を選択したらよいのだろうか?

 

このような質問に答える 評価方法 にEVA(economic value added : 経済的付加価値) というものがあります。

定義
EVAは、資金提供者が期待するリターンを、差し引いた後の残余利益。

企業は事業に投資するために銀行や株主から資金を調達します。

その資金を資産に変え、その資産を利用して事業を運営していきます。

銀行や株主は一定の 見返りを求めて企業に出資をしますが、これが期待リターンであり企業側から見ると資本コストとなります。

この資本コストを資本を利用して生み出した利益から差し引いたものがEVAと呼ばれるものです。

図にすると次のようになります。

決算書において、損益計算書には銀行から調達する分に対しては支払利息が計上するされます。

しかし、株主から調達する分に対して費用は発生しません。
よって、株主から出資してもらった資金はただで使用できるかのごとく損益計算書表示します。

しかし、株主は投資の見返りを求めて企業へ出資をするので、その見返りがなければ資金を引き上げます。

その見返りの期待リターンが企業の資本コストであり、
この資本コストを毎期絶対額として利益から差し引き、

本来の企業が生み出した価値を評価することにより事業への投資価値を評価します。

たとえ会計上は利益が出ていても、
資本にかかるコストを上回る利益を生み出していなければ企業価値は棄損していることになりますので、

M&Aなどの場合には特に注意して価値を算出することが求められます。

どちらの企業を選びますか?

A社とB社で、共にNet Operating Profit After Tax (税引後営業利益: NOPAT) は1,000を得ました。
損益計算書ではこの部分しかわかりません。

しかし、A社は10,000を使用して1,000の利益を生み出しており、B社は100,000を使用して1,000の利益を生み出しています。

使用した投下資本に対するコスト(資本コスト)を考慮して生み出した利益を算出すると、

A社は500の利益を生み出していることに対し、B社は4,000の損失となり企業価値を棄損していることになります。

損益計算書だけでB社をM&Aしてしまったら大変なことになってしまいます。

資本コストの説明はこちら
事業価値を評価するときに使う資本コストはどのように算出するのか

 

事業価値を評価するときに使う資本コストはどのように算出するのか

事業価値を 評価するとき、NPV (net present value:正味現在価値)や EVA (Economic Value Added:経済的付加価値) などの指標を使うことがあります。
これらの指標を計算するには資本コストが必要です。

M&Aにおいて企業を評価するにも必要な知識ですのでしっかりと理解しておきましょう。

資本コストとは

企業は銀行や 株主から 資金を 調達して各事業に投資をし、そのリターンから 投資家へ 利益を 還元していきます。

企業が獲得した 利益から、資金提供者へ 還元する利益を控除した残額が、企業に蓄積され 純資産を構成します。

資金提供者へのリターンが大きければ企業へ蓄積される額は 少なくなるし、小さければ純資産額は 大きくなります。

よって、企業側から見てこの資金提供者へのリターンはコストという認識となります。
このコストのことを capital cost (資本コスト)と呼びます。

capital cost (資本コスト)は
銀行へのコストと株主へのコストの2つで 構成され、
銀行へのコストは負債コスト、株主へのコストは 株主資本コストと呼びます。

企業のコストは、この2つのコストの 資本構成により決まります。
資本構成とは企業の全体資本における 負債と 株主資本の割合のことを言います。

よって資本コストを算式で示すと

資本コスト =   負債コスト ×   負債比率    +     株主資本コスト   ×    株主資本比率

となります。

  負債コストとは

負債コストは 借入金・社債などの 有利子負債にかかるコストです。

負債コストは企業の 信用力により異なり、信用力が高い企業ほど 金利は低くなります。

貸し手からみれば 回収のリスクが低いので 要求するリターンも低くなります。
逆に、 回収リスクの高い企業へは 要求するリターンも高くなります。

負債コストは、リスクがゼロの投資資産に求められるリターンであるリスクフリーレートと、信用リスクに応じたリターンの 上乗せ分である信用リスクプレミアムから構成されます。

負債コスト   =   リスクフリーレート + 信用リスクプレミアム

リスクフリーレートには、
国 が発行する債券である 国債の 利回りが使用されます。
通常10年物の 国債が使用されます。
国債がリスクゼロと断言することはできませんが。。

 

信用リスクプレミアムは
企業の 信用リスクをあらわす格付機関によって付与された 格付になります。

格付は企業の 信用力に対する評価であり、リスクの 度合いがアルファベットで 表示されています。

最も 信用力高く安全な企業の符号が AAA(トリプルA)であり、AA(ダブルA),   A(シングルA),  BBB(トリプルB)と続きます。

AAA格の企業の信用リスクプレミアムが最も小さいということになります。

BBB以上の 格付は 投資資産として適当と評価されており、

BB以下の 格付は投資と呼ぶにはリスクが高く投機的という評価になるようです。

負債コスト を考えるときには、税引後の負債コストを計算する必要があります。

負債コストに該当する支払利息は会社が法人税を計算する際、課税所得から控除されるため、 節税効果があり実際の金利よりも負担は小さくなります。

税引後負債コスト = 負債コスト ×(1-実効税率)

たとえば
負債コスト :  3%、
実効税率 :  30.62%

の場合、実際の負債コストは
3%  ×(1-30.62%) =  2.08%
が実際に負担となる負債コストとなります。

実効税率30.62%は次のように算出されます。

  株主資本コスト  とは

銀行へのコストである負債コストは借入金に対する金利ですのですぐに理解できると思います。

では株主への株主資本コストはどのくらいなのでしょうか?

株主 は、キャピタルゲインを期待して投資をします。

キャピタルゲインは保有していた資産の価格が変動することにより得られる利益のことを言います。

株主へ還元するリターンはこの期待値ということになり、企業側から見ればこの期待値が株主に対するコストということになります。

では、この期待値はどう算出すればよいのでしょうか?

期待値を算出といっても、株がどれだけ上がったら満足するのでしょうか?
どれだけのリターンを期待するのでしょうか?

期待値を決めるのは簡単ではないので 株主の期待リターンを推定するためのモデルを利用することになります。

 

  株主資本コストを計算する CAPMとは

株主資本コストの計算には CAPM(Capital Asset Pricing Model)という方法が用いられます。

株主資本コスト = リスクフリーレート  + マーケットプレミアム × β値

で計算されます。

リスクフリーレートとは
負債コストの計算のときにも使用しましたが、安全な資産に投資した際のリターンのことで、通常10年物国債の利率が利用されます。

マーケットプレミアムとは
株式市場に平均的に投資した場合に、安全な資産よりもどれだけ多いリターンが必要かというのがマーケットプレミアムになります。

ハイリスクであれば、ハイリターンが 要求され、ローリスクならばローリターンで がまんする のがリスクとリターンの関係です。

β値とは
では個別銘柄のリターンはどう算出したらよいのか?
それには市場平均よりも、個別の株価がどれくらい変動するかを数値化します。

このマーケットに対して何倍のリスクがありますか?という指標をβ(ベータ)値と呼びます。

市場平均が10%変動した場合、5%変動する銘柄(A)、10%変動する銘柄(B)、20%変動する銘柄(C)などいろいろです。

Aの銘柄の場合、市場平均が10%プラスに変動すれば5%プラスに変動し、市場が10%マイナスに変動すれば5%マイナスに変動します。

Cの銘柄の場合は、市場平均が10%プラスに変動すれば20%プラスに変動し、市場が10%マイナスに変動すれば20%マイナスに変動します。

リスクは振れ幅のことをいいますので、振れ幅が大きいことをリスクが大きいといいいます。

Aの場合は株式市場全体へ投資するよりもリスクが小さいのでリターンも小さくてよいはずです。

リスク(=株価の振れ幅)がhalf (半分)なのでプレミアムもマーケットプレミアムの半分でいいでしょうというのがCAPMの発想です。

Cの場合は株式市場全体へ投資するよりもリスクが大きいのでリターンも大きくあるべきです。

リスク(=株価の振れ幅)が市場平均の2倍なのでプレミアムもマーケットプレミアムの2倍くださいねというのがCAPMの発想です。

 

資本コストの構成イメージ

資本コストの構成イメージは次のようになります。

 

投下資本とは貸借対照表のどの部分をいうのか

事業を評価する際に投下資本という言葉がでてきます。
何をもって投下資本とするのか、しっかりと理解しておきましょう。

企業は銀行や株主から資金を調達して、それぞれの事業に投下し利益を生み出していきます。

 

この事業へ投下する資本を投下資本とよび企業がNOPAT (Net Operating Profit Taxes: 税引後営業利益) を生み出すための資産であり、投資家 から資金を提供する)された資本です。

この投下資本に資本コスト率を乗じて資本コスト を算出し、企業が獲得したNOPATから差し引いた残余利益が企業に蓄積されます。

この残余利益をEVA (Economic Value Added: 経済的付加価値) とよび、次の計算式で表わされます。

EVA  =  NOPAT-資本コスト

この資本コストが資金を提供してくれた投資家が期待するリターンであり、企業側から見ればコストと認識されます。

企業が獲得したNOPATから投資家が期待する リターンである資本コストを(控除した残余利益が企業が生み出したEVA(Economic Value Added: 経済的付加価値)となります。

  投下資本とは

資本コストは株主が期待する リターンであり、計算は投下資本に資本コスト率を乗じて計算します。

では、投下資本とはどの部分のことをいうのでしょうか?

貸借対照表と比較して考えると、次の図のようになります。

貸借対照表の流動負債 から買掛金・未払費用のような無利子負債を除きます。

それと同額を流動資産から控除します。

よって、流動資産 の「売掛金+在庫-買掛金」となり正味運転資本 が投下資本を構成することになります。

投下資本には買掛金・未払費用や引当金 のような無利子負債を控除した額となりますが、現金預金 はどう考えればよいのでしょうか?

現預金は口座にストックされており、事業を行う上で直接に利用されていません。よって投下資本より除いて考える必要があります。

しかし、現金を所有することが与信評価を保つために必要なこともあり事業を行う上で重要だと考えるならば現金も投下資本に含むべきかと思います。

 

割引率で割引いて現在価値を算出するとはどういう意味?

ファイナンスでは、「割引く」という考えが重要です。

投資判断をする際には、時間価値 という考えが重要であり、評価する 時間軸を合わせる必要があります。

そのため将来のキャッシュフローを割り引いて現在価値を求める作業が必要になります。

まずは「割引く」という意味をしっかりと理解しましょう。

現在価値を理解するには、まず将来価値から理解した方が分かり易いです。

定期預金にお金を預けたことがありますね。
これはどのように利息が付いていくかわかりますでしょうか?

例えば、100万円の元本を年利 10%で3年間投資したとします。

計算式は次のようになります。

本日のinvestment(投資額)   100万円
1年後のbalance (残高)     110万円       =100万円  ×(1+10%)
2年後のbalance (残高)     121万円       =100万円  × (1+10%)ˆ ²
3年後のbalance (残高) 133.1万円           =100万円 × (1+10%) ˆ³

 

N年後の残高は、本日の投資額に対する将来価値と言います。

 

100万円を3年間、年10%の複利で計算すると133.1万円になります。

この時、3年後の133.1万円は現在100万円に対する 将来の価値です。

また逆に、現在100万円は3年後の残高 133.1万円に対する現在の価値です。

これらのことを
3年後の133.1万円は、現在100万円の将来価値といい、
現在の100万円は、3年後の133.1万円の現在価値と呼びます。

この時、現在 の100万円と3年後の133.1万円は同じ価値を持つと評価し、
この時の利率(10%)のことを割引率と呼びます。

「133.1万円を割引率 10%で3年間 割引くと100万円になる」ということができます。

計算 は次のようになります。

投資額 100万円に対し3年後のbalance (残高)を計算するには
100万円  × (1+10%)ˆ ³ = 133.1万円
となります。

この 式につき、100万円を求める式 に直すと
100万円= 133.1万円  /  (1+10%)ˆ ³
となります。

それぞれの 数字の意味は次の通りです。

100万円 :  現在価値 (present value)
133.1万円 :  将来価値 (future value)
10%               :    割引率 (discount rate)
^3            :  年数 (term)

よって、現在価値を求める 式は

現在価値 = 将来価値  /  ( 1+ 割引率 ) ^ 年数

となります。

割引率と現在価値 の関係 は、割引率 が大きければ 現在価値 は小さくなります。

 

IRRとNPVで投資価値を評価する

限られた資金で投資をする場合、どの投資案件が一番有利なのかを判断する必要があります。
どのような指標を使って判断すればよいかを見ていきましょう。

今4つの 選択肢があり、それぞれのキャッシュフローは 次の通りです。

あなたは、どれに投資をしますか?
(投資はどれか1つだけとします)

 

まず、何をもって評価するかを考える必要があります。

まず考えられるのが、効率ですね。利回りというべきでしょうか。

  定期預金の収益率(利回り)計算

定期預金の 利回りを 計算するのは 簡単です。
初期投資の10,000千円が 複利計算で5年後に 12,763千円となっています。

これは、エクセルのFV関数を使って求めると、5%という結果 が出ます。

FV関数の使い方はこちら

  内部収益率IRRとは

投資の収益率を判断する指標としてIRRというものがあります。

IRRの定義として教科書的な説明では
「IRRとは、投資期間のキャッシュフローの正味現在価値(NPV)が0となる割引率をIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)という。」

という説明になりますが、わかりずらいので分かり易く説明してみます。

さきほど定期預金の収益率(利回り)は5%と求めることができました。

では、他の投資案件 の債券、事業投資A,  事業投資Bの投資効率はどのように求めたらよいのでしょうか?

(債券 は、初期投資 10,000千円で5年間毎年500千円づつ利益があり、最終年度に元本の10,000千円が戻ってきます。

 

これは次のようなイメージになります。

各期のCF(キャッシュフロー)をR%で 複利計算した場合の 将来価値を求めて(F1~F5)、それらを合計(y)する。

その合計金額 yは、初期投資額10,000千円をR%で複利運用した金額と同じになる。

このR%を求めるのがIRR関数である。

 

収益率を比較するには、算出する時点を ある一時点に合わせることが必要です。

通常IRRの 説明では、
各CFを現在の時点に合わせて計算するため
現在価値に直して、現在 の時点でのCFの合計が初期投資額と同額となる収益率を求める方法で説明されます。

しかし、ここでは将来の時点に合わせて計算しています。

それぞれの方法で投資をしたら5年後にいくらになっているか?
という考えですので、現在価値に割引いて現在の時点で考えるよりも、考え方としては馴染みやすいかと思います。

考え方として説明しましたが、いちいちこのように計算するのは手間がかかりますので、エクセルのIRR関数を使うとすぐに計算できます。

=IRR (B4:G4) と入力すれば5%という答えが出ます。

 

各投資案件についてもIRRを求めてみましょう。

事業投資Aと事業投資Bは共に初期投資は100,000千円であり、5年間の 収益合計は15,000千円です。

しかし, 内部収益率 IRRは事業投資Aが4.7%, 事業投資Bが5%となっています。

収益率に差が出るのは、事業投資Aの方が資金の回収が遅い のが原因です。

このようにIRRはキャッシュフローの 時間的価値も考慮した収益率として計算されます。

  事業投資判断の仕方

IRRによりそれぞれの投資案件につき収益率を算出しました。

事業投資をする際、予測のキャッシュフローでIRRを計算すると、事業投資Aは4.7%, 事業投資Bは5.0%です。

どちらの事業も定期預金 のIRRを上回ることはできません。

事業に投資する場合には、利益だけではなく戦略的な観点も含んで投資をしますが、

収益率のみで判断した場合、事業Aにも事業Bにも投資することはできないという判断になります。

定期預金 の 利息 は労なく得られる利益であり、わざわざ 事業に投資をして苦労するくらいなら、定期預金 に事業投資と同じだけの投資をして利益を得た方がよいです。

事業に投資をする判断 として、ここでは定期預金 のIRR(5%)がひとつの 基準となり、これ以上のIRRを得られると予測するのであれば事業へ投資を行うというような考え方になります。

このIRRをハードルレートと呼びます。

では、ハードルレートに足りない場合、どれくらい機会損失 が考えられるのかを算出してみます。

この場合NPVを算出することになります。

NPVは、各期のCF(キャッシュフロー)を現在価値 に直して、その合計額から期投資額を控除した金額で表されます。

各期のCFをハードルレート(5%)で割引いてNPVを算出します。

プラスであればハードルレートよりも高い収益を得られるという判断になり、マイナスであればハードルレートよりも低い収益になるので事業投資は見送りという判断になります。

  NPV計算の説明

事業投資Aを通してNPVの 計算方法 を見てみましょう。

事業AのNPVを定義すると
「事業Aは定期預金で運用する場合と比べて、現在の時点でいくらのプラス(マイナス)の価値があるのか」
ということになります。

事業投資AのCFが1年目から5年目まで各期において予測されています。

このそれぞれの期のCFを、ハードルレートIRRで現在価値 にします。(p1~p5)

それぞれ現在価値に割引いたCFを合計し、その合計額(y)から初期投資額(100,000千円)を控除した金額がNPVです。

 

事業投資AのIRRは4.7%でしたので、4.7%でそれぞれの期のCFを割引くとNPVはゼロとなります。
IRRとは、NPVがゼロとなる収益率を表しているからです。

 

IRRが4.7%の事業投資Aを、ハードルレート5%で割引きしたらどうなるでしょうか?

ハードルレート5%のところ、内部収益率 4.7%しか得られないため 機会損失 が発生することはわかります。

どれくらい機会損失になるかはNPVで計算することになります。

これにより、100,000千円の投資額に対して、844千円の機会損失が予測されることがわかります。

ここでいう機会損失というのは、ハードルレートを基準にした定期預金への投資に比較して機会損失が発生することを意味します。

4.7%の利益は出るため、損失ではありませんのでご注意下さい。